ペレキアンのための旅行案内〜その8 イグルー

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図書館を出て、さっそく地図を片手にヴィラール=ド=ランスの探索を始めよう。と、その前にやっぱりお腹がへったので食事をすることにした。ちょうど市役所手前の広場の周りにレストランが並んでいたのでそこに入ることに。広場を眺めながらテラス席でのんびり昼食。テラス席はまだちょっと寒かった。

ところで、この広場(と思われる)について『Wあるいは子供の頃の思い出』こんな記述がある。

フランソワ・ビューについても思い出がある。彼もまたぼくにとってある種のアイドルだった。とりわけ彼をフランソワ・ビヨンと混同しなくなってからは。彼がヴィラールに滞在した際にはとてつもなくたくさんの人が集まった。今はなくなってしまったが当時は中央に噴水があった広場は黒山の人だかりでうまった。アンリとぼくは演壇に近づくことができた。アンリはイリヤ・エレンブルグの本『パリ陥落』(この本にはぼくにとって納得がいかず理解できないところがあった。これはロシア人によって書かれた本だが、パリが舞台だった。翻訳ではわからなかったが、ロシア語版では例えば「クジャス通り」や「スフロ通り」はなんと言われ、読者にどんな印象を与えたのだろうか)を持っていた。アンリが本を渡すとフランソワ・ビューは彼に献辞を書いて返してくれた。一方ぼくは握手することができた。たぶん司教と握手するよりもずっと嬉しかったはずだ。

ぼくはよく広場に新聞を買いに行った(新聞、タバコ、お土産、絵葉書を売っている店がまだ同じ場所にある)。1945年5月のある日、広場がまたもや黒山の人だかりで埋まったていたのを目撃した。お店になかなか入れず、ようやく新聞を買うことができた。ぼくは「アロブロージュ紙」を掲げて「日本が降伏した」と声を限りに叫びながら、興奮した群衆にあふれる通りを走って戻った。(第33章)

ヴィラールには他に広場らしい広場はないから、たぶんここのことだと思う。広場の名前はたぶんない。とくだんなにか特別なモニュメントがあるわけでもない、平凡なたたずまいの広場だ。作品にあるように、噴水らしきものはその名残も含めて見当たらない。ただし、写真を撮り忘れたしまったのだが、まさに新聞とタバコとお土産と絵葉書を売っている店は確かに残っていた。ここで水か何か買ったと思う。


大きな地図で見る

広場を後にしておそらく少年ジョルジュが走って戻った道をたどってみる。ちょっとした商店街を抜けると視界が一気に開けた。少し寄り道しながらも図書館でもらった地図を頼りに道を進んでいく。

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短い商店街レピュブリック通りを抜けるといっきに視界が開けた。  この日は少し曇り空。あたりには広々とした別荘が点在している。

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そんな別荘の中に、イグルーを見つけた。IGLOOと書いてあるので、あのイグルーに間違いないだろう。

伯母エステールが家族と住んでいた別荘は広い坂道をのぼりきったところから、だいぶ離れたところにあった。ヴィラールの大広場へ続くその坂道は、下の方にいくと、村に二つあるいわゆる商店街のひとつにつながるのだった。この道沿いを下った右手にはガルド農場があり、伯父ダヴィッドの弟マルク、妻のアダと二人の子供ニシャとポールが住んでいて、もう少しのぼった左手にある別荘イグルーにはダヴィッドの妹のベルト、夫のロベールと息子のアンリが住んでいた。
ぼくはイグルーがなんだったか知っていと思う。エスキモーがつくる、氷のブロックを積み上げた避難所のことだ。

 ✱


伯母エステールに、彼女の義理の妹ベルトの家イグルーへ連れってもらった日のことをぼくは覚えている。ふたりは居間にいて、ベルトはぼくと当時十二三歳だったはずの息子アンリを二階へ遊びに行かせた。どうしてかわからないが、ぼくはとても狭く急な階段のことをはっきりと覚えている。(第17章)

なんというか、デカイ。ペレック自身はイグルーの外観についてほとんど描写していないので、こちらの勝手な思い込みだったのだが、単純に「戦時中」「疎開」「隠れ家」といった状況から、もっとこじんまりとした別荘を思い描いていた。もっとも、当時のビーナンフェルド家の経済力からすればこのサイズの別荘を貸しきることぐらい造作も無いことだったのかも知れない。いや、まわりの別荘もこれぐらいのサイズだから、そもそもこれが普通のサイズなのかな。ただし、イメージと現実の差異よりも驚くべきことは、作品の中に出てきたある別荘が、半世紀以上の時を経ても当時と同じ名前で同じ場所に何事もなかったかのように存在していることだ。ああ、イグルーってほんとにあったんだ、って感じ。


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